東京高等裁判所 昭和24年(新を)3809号 判決 1950年7月22日
被告人
明星惣太郎こと
明星秀一
主文
原判決を破棄する。
被告人を懲役一年に処する。
原審及び当審の訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
前略。
論旨第三点について。
窃盗罪は、他人の財物をその事実的支配を侵して、不法に自分の事実的支配に移すことによつて成立し、その時に既遂の域に達するものであること洵に所論の通りである。而して、他人の支配を奪い、自己の支配内に移つたかどうかは、各場合の具体的事情、特に窃取された目的物、窃取の場所等を考慮して判断せねばならぬものである。記録によつて、本件第五の窃盗を見るとこれは国鉄上野駅の地平ホームと称する地下の広い小荷物到着発送作業場であるが、入口は梯段を下りて行くようになつており、外部の者の出入については、その入口右側に見張員詰所があつて、監視することになつているか、内部は一面の作業場で中に格段の仕切もないことが窺われるか、被告人は右作業場にあつた託送小荷物を一個取り、これを担いて作業場の入口の方に行く途中、即ち未だ右入口から出ない前に作業場の係員に発見逮捕せられたというのであるから、被告人は未だ右の荷物の保管者の支配を奪うて、これを自己の支配中に移したということはできない。即ち本件は、窃盗未遂と見るべきである。しかるに、原審はこれを窃盗の既遂と認めたのは事実の誤認である。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。